実案件ワークフロー:見積り、改稿回数、権利の線引き

0. 全体像(フェーズと成果物)

  1. 要件定義(ヒアリング)
    目的/KPI/媒体・期間・地域/尺・本数/トーン&サンプル/NG表現/スケジュール・予算レンジ
  2. SOW(作業範囲)確定
    納品物・本数・尺・解像度・テロップ言語・BGMライセンスの範囲・改稿回数と定義・検収方法
  3. 見積・発注
    着手金入金→キックオフ
  4. 制作
    ①企画・構成案/②絵コンテ・安全地帯設計/③配色・ライティング/④プロンプト設計/⑤生成(静止画/動画)/⑥編集・グレーディング/⑦BGM/SFXライセンス
  5. 改稿(定義順守)
    ラウンド上限・対応期限・追加費用判断
  6. 最終検収・請求
    納品→検収→残金請求→権利移転/ライセンス有効化

1. 見積り:3つの方式と使い分け

A. 工数×レート方式(T&M)

  • 例)ディレクター ¥8,000/h、アニメーター ¥6,000/h、PM ¥5,000/h
  • 弊害:スコープ膨張のリスク。週次で実績報告をルール化

B. パッケージ価格(よく売れる)

  • 例)15秒×3本:¥300,000(企画/絵コンテ/生成/編集/音源1点/改稿2R含む)
  • スコープが明確なSNSリールに向く

C. バリュー・ベース

  • 例)CV目標付きランディング動画:成果価値の××%
  • KPIが合意でき、クライアントがマーケ組織の場合に有効

おすすめ
初回はB(パッケージ)で安全運用 → 実績後にA/T&MまたはC/バリューへ拡張。


2. 見積り内訳(例:15秒リール1本)

項目工数/単価金額(例)備考
企画・構成案4h × ¥8,000¥32,000目的/KPIと訴求を整理
絵コンテ & セーフゾーン設計4h × ¥6,000¥24,0001080×1920/中央1010×1440基準
配色/光設計(Look Dev)3h × ¥6,000¥18,000トーン&ライティング
プロンプト設計3h × ¥6,000¥18,000JP/EN両方
生成(静止画/動画)6h × ¥6,000¥36,000出力&選定
編集/グレーディング5h × ¥6,000¥30,000テロップ・SE入れ込み
BGM/SFX ライセンス1式¥10,000ロイヤリティフリー1曲
PM/進行・報告3h × ¥5,000¥15,000連絡・調整
小計¥183,000改稿2Rまで含む
追加改稿(3R目〜)1R/〜2h¥12,000目安。内容によりT&M

支払条件例:着手金50%/中間0%/納品検収後50%
納期:素材受領後7営業日(改稿により変動)


3. 改稿回数と定義(揉めないための“言葉の線引き”)

  • 軽微修正(Minor):テロップ文言・位置微調整、色/露出 ±10%、カットトリム ≤1秒、BGM音量等
    改稿Rの消費=0.5R(まとめ依頼可)
  • 通常改稿(Standard):カット差替/尺の変更 ≤20%、テロップ差替、色再調整
    1R消費
  • 再制作/仕様変更(Change Order):構成変更>20%・尺追加・スタイル変更・新規素材要求
    SOW外:再見積orT&M
  • Rの上限2R(パッケージの場合)。3R目以降は追加費用
  • レスポンスSLA:依頼から3営業日以内に修正を返却/クライアントは2営業日以内に合否コメント
  • 検収:納品から5営業日で確定(無応答は自動検収)

変更管理の運用
仕様変更はChange Order票に記入(変更点/影響範囲/追加費用/納期差分)→双方サイン


4. 権利の線引き(AI時代の必須ポイント)

4-1. 納品物の権利

  • ライセンス方式(推奨)
    • 非独占/独占媒体(WEB/アプリ/OOH/TV)地域期間を明記
    • 二次利用(広告転用/有料配布)は追加ライセンス
    • 制作データ(プロジェクト/プロンプト/seed、ラフ、生成画像ソース)は非引き渡しが原則。必要なら有償オプションで範囲定義
  • 譲渡方式:対価支払完了時に著作権を譲渡(※下記の除外を明記)

4-2. 除外・第三者権利

  • ストック素材、BGM/フォント/SFXの原権利は各ライセンスに依拠
  • 出演者や実在人物の肖像権/モデルリリースはクライアント手配が原則(手配代行は別途)

4-3. AI生成に特有の条項

  • 生成物の類似リスクに関し、完全な非侵害保証は行わない旨を限定(合理的な確認は実施)
  • 学習/再学習への素材利用はオプトイン(デフォルトは不使用)
  • プロンプト・プロセスの**ノウハウ(Trade Secret)**は守秘対象

4-4. 著作者人格権等(日本法前提の一例)

  • 公表権・氏名表示権はクレジット入りで対応可能
  • 同一性保持権は契約目的の範囲で行使しない旨の合意
  • 反社排除、準拠法/裁判管轄、契約期間、解除事由、Kill Fee(中途解約率)を明記

5. 条項テンプレ(抜粋)

(ライセンス付与)

甲は、乙に対し本制作物について、非独占的かつ譲渡不能の利用許諾を付与する。許諾範囲は、媒体:Web/SNS、地域:日本国内、期間:1年間とする。二次利用(広告出稿、OOH、物販、再配布、第三者へのサブライセンス)には、別途乙の書面承諾と有償ライセンスが必要である。

(改稿範囲)

乙は、パッケージ料金に含まれる改稿回数を2ラウンドとし、軽微修正は0.5ラウンドとみなす。3ラウンド目以降または再制作に該当する変更は、Change Orderに基づく追加費用精算とする。

(検収)

乙が納品した日から5営業日以内に甲が異議を述べないときは、当該制作物は検収完了とみなす。

(保証・責任制限)

乙は善良な管理者の注意義務のもと制作を行うが、第三者権利の完全非侵害を保証するものではない。乙の責任は、直接且つ通常の損害に限られ、上限は当該契約対価を超えない。

(秘密保持/AI学習)

甲乙は本件の非公開情報を第三者に開示しない。乙は甲の素材をAI学習目的に使用しない(甲が書面承諾した場合を除く)。


6. メール雛形(実務でそのまま)

A. 見積送付

件名:見積/15秒リール×3本(改稿2R含む)
本文:添付の通りお見積りをお送りします。作業範囲(SOW)、改稿回数、納期、検収方法を記載しています。問題なければ発注書またはメール同意をご返信ください。着手金ご入金確認後、キックオフMTGをご提案します。

B. 仕様変更の合意

件名:Change Order承認のお願い(構成変更 20%超)
本文:添付COに変更点と追加費用、納期差分を記載しました。ご確認の上ご承認ください。承認後、改稿カウントはリセットされます。

C. 権利確認

件名:ライセンス範囲の最終確認
本文:媒体/期間/地域/サムネの二次利用/広告出稿の有無をご記載ください。範囲外利用の場合は追加ライセンスをご案内します。


7. リスクと回避策

  • スコープ不明 → SOWに含む/含まないのリスト化(BGM、フォント、素材購入、ナレーション)
  • フィードバック遅延 → SLA(各2営業日)を合意
  • 広告転用の想定漏れ → 最初からブースト基準のセーフゾーンで設計
  • 権利衝突 → ストック/BGM/フォントのライセンス証跡をプロジェクトに保存

8. 1枚にまとまる「SOWひな形」(コピペ可)

案件名:
目的/KPI:
媒体・地域・期間:
本数/尺/解像度: 15秒/9:16/1080×1920
スコープ:企画/絵コンテ/配色・光/プロンプト/生成/編集/グレーディング/BGM1点
改稿:2R(軽微0.5R)。3R目以降は追加費用
スケジュール:キックオフ→構成案→1st納品→改稿→最終
検収:納品から5営業日
ライセンス:非独占、Web/SNS、日本国内、1年(二次利用は別途)
素材・データ:プロジェクト/プロンプトは非引渡(別途有償可)
秘密保持・AI学習:素材を学習に利用しない
支払:着手金50%/検収後50%
担当窓口/連絡手段:

まとめ

  • 見積は「パッケージ基準」で始め、改稿定義とR数を先に書く
  • 権利は「利用許諾の範囲」「制作データの扱い」「AI学習の可否」を明文化
  • Change Order運用でスコープ逸脱=再見積を徹底
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